漢方相談室より

漢方薬局店主による雑録です。肩の力を抜いてご覧いただければ幸いです。

人助けと芸術鑑賞

桜散る頃、、、

「桜吹雪」ときたら、遠山桜こと「遠山の金さん」を連想する方もいらっしゃることでしょう。

自分が観ていた頃は、杉良太郎高橋秀樹松方弘樹がそれぞれの金さんを演じていました。

江戸は後期、北町奉行の“金さん”こと遠山金四郎は遊び人になりすまし、数々の事件を解決していくという痛快(?)時代劇です。

もちろん、毎話お約束のストーリー展開です。

①江戸の町で事件が起こる
②遊び人に成りすました“金さん”が潜入捜査をする
③悪党をこらしめ、自分の配下に捕縛させる
奉行所のお白洲(現代の法廷にあたる)へ
⑤そこで悪党はシラを切る
⑥これにご立腹の金さん、桜吹雪の入れ墨を見せて決めゼリフ
⑦観念した悪党は裁かれる

決めゼリフのレパートリーは豊富です。
「この遠山桜、忘れたとは言わせねえぜ!」
「この桜吹雪、散らせるモンなら散らしてみろい!」
「この桜吹雪、手前らの悪事をちゃーんとお見通しでぇい!」

・・・

などなど。

 

 先日、某N局の番組によって、この金さんがまさかの実在人物だったことを知りました。巣鴨本妙寺にそのお墓があるそうです。

しかも、驚いたことに、水戸黄門ほどのフィクションではないとのこと。

・・・・・・・・・・

前置きが長くなりましたが、番組ではある共通点を掘り出します。

金さんは、危険を顧みずに潜入捜査をします。それは、単なる正義感だけではできないことです。

人助けによって社会的な喜びを得ることで、脳の「眼窩前頭皮質内側部」という箇所がとっても気持ちいいと感じる。。。どうやらこれが病み付きになるようです。

そして、これは芸術作品を観た時にウットリする時と同じことが起こっているのだとか。

金さんは隠居して後、美術鑑賞に耽っていたそうです。職責を全うして後も、脳が覚えた快楽の感覚を保ち続けていたのです。

 

人助けと芸術鑑賞。。。

 

いい仕事をするためには、どうやら両立させた方がよさそうです。

では、良き漢方家になるために、さっそく行くとしますか(^^)/

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不易流行

不易を知らざれば基立ち難く、流行を知らざれば風新たならず」

 

これは、かの松尾芭蕉が長旅の中で見出した俳句哲学だそうです。

少し噛み砕いて言うと、

”古来からの普遍的な基礎を学び、本質を知った上で、時代の変化に沿った新しさも取り入れていく”

ということです。

  

実は、今日いらした患者さんに教えて頂いた言葉なんです(^_^;) そのお方は、ある業界のプロフェッショナルにて、まさにこの言葉を実践していらっしゃいます。

 

漢方相談では、患者さんの言葉に耳を傾けることを大切にします。

もちろん、それは微細な情報を逃さず、治療に反映させるためでもあります。何気ない一言が、その後の治療結果を左右することがあるのです。

その中で、教えて頂くこともたくさんあります。幸運にも、腑に落ちる良い言葉を頂くことがあります。

 

漢方は2000年もの歴史があります。すでに基礎となる理論体系は構築されていますが、それを金科玉条のごとく堅守しているだけでは、漢方の発展などあり得ません。

時代は刻々と変化し、患者さんは現代病とも言える様々なお悩みを抱えています。それに対処するには、確かな理論のもと、新たな発想を展開していく必要性があります。

 
そのことを、あらためて考えさせられる言葉でした。

感謝です。

 

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背水の陣

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先日、放送された「NHKプロフェッショナル」

大相撲の裏方特集だった。

裏方と言っても、小学生時分から相撲好きだった自分にとっては十分に花形である。バチ当たりにも、当時は「呼出し」や「行司」の振る舞いをよく真似たものである。

その “行司” と言えば、
知る人ぞ知る、木村庄之助式守伊之助である。

二つの名跡は、立行司(たてぎょうじ)と言って、行司の最高位に君臨する。いわば行司の横綱であるから、結びの一番を取り仕切るのは、この立行司ということになる。

番組では、その行司の重責のすさまじさを披露した。勝敗がつくと、間髪入れずに判断しなければならない。差し違えれば(誤審)、それは進退問題にまで発展する。

昔ならば切腹ものだ。
立行司の懐に差してある短刀は、その意思の表れである。

現在、木村庄之助は空位であるため、
式守伊之助がその任にある。

その式守伊之助は、なんと越谷在住。
だからどうということはないのだが、やはり親近感が湧くものだ。

幾度となく繰り返された差し違え、そして出場停止処分。家族も巻き込んでの苦悩と葛藤。今後は、行司の軍配(判定)にハラハラドキドキしそう。。。

現代では、さすがに切腹はないが、何よりも恥ずべきことだとされる。辞職に追い込まれる行司もいる。なんとも残酷だ。

一瞬の判断のための平常心が求められる。

「ただ、ただ、無心に・・・」

プロフェッショナルでお約束のテロップ。

大いに自問自答しました。


漢方の相談、、、
このように背水の陣で臨んでいるだろうか。。。

 

今後とも心して臨みます。

 

 

 

誰の利益?(2)

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それから程なくして一本の電話が入った。(誰の利益?(1)の続き)

「おかげさまで、衝撃の事実が分かりました!」

 

糖尿病専門医に診断を仰ぎ、教育入院を経て、新たな事実が分かったのだと言う。

”クッシング症候群”


それは、副腎にできた腫瘍(良性)が原因で、コルチゾールというホルモンが過剰に分泌される病気だ。コルチゾールステロイドホルモンであるため、ステロイド薬の副作用と同様の症状に悩まされることになる。

顔がまんまるになり(ムーンフェイス)、手足が細いわりに体幹部に脂肪がつきやすくなる。筋肉の脱力感、血圧や血糖値も上昇する。

すべてが腑に落ちた。

この病気は骨ももろくなるため、骨折しやすくなる。そもそも、この方の骨折は整体治療院での施術に、もろくなった骨が耐えられなかったことによると考えられる。

 

電話口の向こうからは感謝の言葉が絶えないが、、、どこか心苦しい面もある。

食事や運動の指導という名目で、様々な制約を強いてきた。そして、、、

「そんなに食べてないんですけれど・・・」

こんな自己防衛もさせてしまった。今思えば、本当にそうだったのかもしれない。気の毒なこと言ったな。。。

何事にも謙虚な姿勢が大事。

漢方は有効な治療手段だが、それに固執することがあってはならない。必要とあらば、病院での検査を促す。また、現在治療中であったとしても、腑に落ちない点があれば、医師に説明を求めることや、場合によっては転院や再検査を促す。

どんな時でも、患者さんの利益が第一である。

そのためにも、正しい認識をもち、その時、その方に何が最善かを考える。。。

  

今後とも精進します。

 

誰の利益?(1)

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それは、痛みの治療がきっかけだった。

患者さんは40代女性。初めて相談にいらした時、自力では歩行困難なほどの激しい痛みだった。

すでに幾つかの病院で検査したそうだが、原因は分からず、痛み止めの薬も全く効かない。漢方相談ではよくあるケースだ。

こうした場合、もちろん漢方薬痛みを緩和することは可能だ。しかし、原因が分からなければ長期間の服用を強いられることになる。漢方薬とて、長く服用して頂くのは本意でない。


そこで、再び他院での検査を促したところ、坐骨と恥骨の骨折が判明した。自力で歩けないはずである。

結果、漢方薬は痛みの緩和を目的に、骨折が完治するまで服用して頂いた。


話はここで終わらない。。。


相談では、現在服用中のお薬や検査データなど、できるだけ多くの情報を開示して頂くことにしている。もちろん、薬の飲み合わせチェックが目的でもあるが、現在お悩みの症状との因果関係も確認する必要があるためだ。

さて、高血圧、糖尿病、高脂血症の薬を服用中だったが、血糖状態を示すHbA1c(ヘモグロビンエーワンシー)の値が高い。その一方で、頻繁に冷や汗や手指のふるえなど低血糖と思しき症状を訴えている。

血糖コントロールが上手くいっていないのである。

この患者さんは、仕事がらやむを得ず食事の時間が不規則になりがちで、服用薬のタイプだと適合しづらい。従って、ライフスタイルに合わせた薬の選択が求められる。


そこで、医師に処方薬の再検討を促してみることにした。

回答は、、、

「薬の変更は必要ない」
「専門病院への紹介もしない」

というものだった。かと言って食事や生活指導の形跡もない。。。

調べると、この医院が標榜するのは整形外科、リハビリ、内科である。患者さんには分かりづらいだろうが、専門は整形外科と思われる。


専門外だからどうこう言いたいのではない。

それって、本当に患者さんの利益になりますか?

ということである。

 

これは、医療人として常に自問自答すべきことである。

 

(つづく)誰の利益?(2)

 

 

癒しの香り

ヒマワリとキンモクセイのコントラスト。。。

 

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季節が移り変わろうとしています。

 

そろそろ秋も本番です。

 

 

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「天高く馬肥ゆる秋」

「食欲の秋」

「読書の秋」

 

季節の移ろいはゆっくりなほど、カラダに優しい。

 

どうか、お急ぎになりませぬように^_^

 

 

あいうべ体操?

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〇〇湯(漢方薬)はありますか?

入店するや否や、開口一番こう切り出されることがあります。漢方薬局の日常あるあるです。

こうした切り出し方は、一種の挨拶のようなもの。「ちゃんと話を聞いてもらえるだろうか?」という隠れた気持ちがあると心得ております。もしも、言葉を額面通りに受け取って即座にお薬をお渡しすれば、きっとその方は拍子抜けすることでしょう。

  

さて、昨晩の出来事。

半夏厚朴湯(はんげこうぼくとう)はありますか?」

サラリーマン風、40代と思しき男性です。

「どうなされましたか?」

返す刀で問いかけると、鼻腔から咽喉(のど)にかけて違和感があり、血混じりの鼻水が咽喉に降りてくるのだとか。もう一年にもなるそうです。

これまでに耳鼻科を転々としたが、原因が分からず治療法もない。そこで、ネットで調べていくうちに「咽の異物感(ヒステリー球)に半夏厚朴湯」がピンと来たのだそうだ。

ここで、まずは事の始まりを考える必要があります。

聞けば、「あいうべ体操」を始めた時期と重なるとか。。。

「ん?? あいうべ体操?」・・・二度聞き返しました(笑)

実際、「あ」「い」「う」の後に、舌を出しながら「べー」と発声する体操のようです。口呼吸を鼻呼吸に改善したり、風邪やインフルエンザの予防効果があるのだとか。

何度も繰り返し行うだけでも口が渇きそうです。

また、この方はアレルギー性鼻炎にて市販の抗アレルギー薬を常用しています。しばしば鼻洗浄もするそうです。

 

なるほど、、、これです。

鼻腔や口腔粘膜が乾燥して、傷ついていることが予想されます。市販のアレルギー薬は、古いタイプのものですと粘膜が異常に乾きます。鼻洗浄も、水道水を使って行えば乾きを助長するでしょう。

なんとか自分で治そうとして、様々な方法を試してきたことが裏目に出たのかもしれません。そこで、半夏厚朴湯に辿り着いた。

 

しかし、これは不適です。

半夏厚朴湯には半夏や厚朴という生薬が入っています。これらは燥性があり、余計に乾きを助長する恐れがあるためです。

この場合、麦門冬湯(ばくもんどうとう)が適します。半夏も含まれますが、それ以上に粘膜の乾きを潤す生薬を含んでいるためです。

ただ、優先順位からすると、、、まずは現在服用しているお薬や、鼻洗浄を中止することが先決です。季節がら乾燥しやすくなるため、飴などで咽喉を潤すことも必要でしょう。

結果、漢方薬はお出ししませんでした。

「1週間様子を見て、それでも改善しないようならまたいらしてください。」

傷が癒えるのに、少し時間がかかるのです。

一連の説明に納得されたその男性は、意気揚々と帰って行かれました。

最善の策を考えること。これもまた我々の役目です。