漢方相談室より

漢方薬局店主による雑録です。肩の力を抜いてご覧いただければ幸いです。

あいうべ体操?

f:id:kampo-shinseido:20170930185857j:plain

〇〇湯(漢方薬)はありますか?

入店するや否や、開口一番こう切り出されることがあります。漢方薬局の日常あるあるです。

こうした切り出し方は、一種の挨拶のようなもの。「ちゃんと話を聞いてもらえるだろうか?」という隠れた気持ちがあると心得ております。もしも、言葉を額面通りに受け取って即座にお薬をお渡しすれば、きっとその方は拍子抜けすることでしょう。

  

さて、昨晩の出来事。

半夏厚朴湯(はんげこうぼくとう)はありますか?」

サラリーマン風、40代と思しき男性です。

「どうなされましたか?」

返す刀で問いかけると、鼻腔から咽喉(のど)にかけて違和感があり、血混じりの鼻水が咽喉に降りてくるのだとか。もう一年にもなるそうです。

これまでに耳鼻科を転々としたが、原因が分からず治療法もない。そこで、ネットで調べていくうちに「咽の異物感(ヒステリー球)に半夏厚朴湯」がピンと来たのだそうだ。

ここで、まずは事の始まりを考える必要があります。

聞けば、「あいうべ体操」を始めた時期と重なるとか。。。

「ん?? あいうべ体操?」・・・二度聞き返しました(笑)

実際、「あ」「い」「う」の後に、舌を出しながら「べー」と発声する体操のようです。口呼吸を鼻呼吸に改善したり、風邪やインフルエンザの予防効果があるのだとか。

何度も繰り返し行うだけでも口が渇きそうです。

また、この方はアレルギー性鼻炎にて市販の抗アレルギー薬を常用しています。しばしば鼻洗浄もするそうです。

 

なるほど、、、これです。

鼻腔や口腔粘膜が乾燥して、傷ついていることが予想されます。市販のアレルギー薬は、古いタイプのものですと粘膜が異常に乾きます。鼻洗浄も、水道水を使って行えば乾きを助長するでしょう。

なんとか自分で治そうとして、様々な方法を試してきたことが裏目に出たのかもしれません。そこで、半夏厚朴湯に辿り着いた。

 

しかし、これは不適です。

半夏厚朴湯には半夏や厚朴という生薬が入っています。これらは燥性があり、余計に乾きを助長する恐れがあるためです。

この場合、麦門冬湯(ばくもんどうとう)が適します。半夏も含まれますが、それ以上に粘膜の乾きを潤す生薬を含んでいるためです。

ただ、優先順位からすると、、、まずは現在服用しているお薬や、鼻洗浄を中止することが先決です。季節がら乾燥しやすくなるため、飴などで咽喉を潤すことも必要でしょう。

結果、漢方薬はお出ししませんでした。

「1週間様子を見て、それでも改善しないようならまたいらしてください。」

傷が癒えるのに、少し時間がかかるのです。

一連の説明に納得されたその男性は、意気揚々と帰って行かれました。

最善の策を考えること。これもまた我々の役目です。